2018.08.02

なぜマネジメントなのか - 10年前に読みたかった本

ここ数年、かつてない頻度で勉強会に参加している。
その主催者もしくは発表者でよくお見かけするのが@Vengineer氏だ。

@Vengineer氏が必読書としてよく挙げるドラッカー本だが、主要なものは以前に読みつくしていた。
しかしそれでもマネジメントとしてなにかこう上手くいかない、歯車が噛み合わないもどかしさを
ここ数年の自分自身の課題として感じていた。価値の創造や戦略のほうばかりに気をとられ
結局マネジメントとは何なのか、そこがわかっていなかったのだ。

そんな@Vengineer氏がドラッカー以外でよく言及される本があった。

それが本記事のタイトルにもなっているジョアン・マグレッタ著の「なぜマネジメントなのか」だ。

本書は、マネジメントをある年齢に達したら、果たさねばならないネガティブな職務だとは捉えていない。

冒頭から「21世紀で一番重要な革新とは何だったか?」という問いから始まる。
様々なテクノロジーによって生活の質向上の恩恵を被ってきたが、
一番重要な革新は、「組織を動かす思考とその実績の累積であるマネジメントの原則である」と説く。

マネジメントの本質は、「複雑なこと、専門的なことを、実践に移すためのもの」と定義される。
インターネットによってひたすら加速していく知識経済の中で働くということは、かつてないレベルで
技術が複雑化して、専門性が細分化されてきた環境の中で結果を出す必要に迫られていることを意味する。
そして、このトレンドが続いていくことは間違いない。

したがって、マネジメント能力とは、それが仕事であるかどうかに関わりなく、われわれみんながマネージャーのように考える術を学ぶ必要があると主張されるのだ。

ここから「マネジメントとは結局のところなんなのか。」「うまく果たすための普遍的な原則は何なのか」について、これでもかと文章のあちこちに金言が散りばめられ、怒涛の展開が始まる。
ここから心に刺さった箇所を列挙していきたいと思う。

・マネジメントの仕事は、うまく機能する組織を作り上げること
・組織と人間を動かすための汚れ仕事であるマネジメントの仕事
・マネジメントは行動の技術
・組織は目的のためにある、組織の内部だけに終わってはならない
・組織はその外部の人々のニーズを満たすためにある
・仕事がうまくいっているかどうか確かめる真のテストはたったひとつ
 その仕事に対して喜んでお金を払う顧客がいるかどうか
・顧客自身が決める必要を満たすことによってのみ、組織は成功することができる
・「製造側の発想」
 自分がなにをつくるかに始まり、コストがいくらかによって価格を決め
 そこから顧客に売る=Make and Sell モデル
・そうではなく、顧客の目を通して外側から内側を見る必要がある
 「マーケティングの発想」= Sense and Response
・良いビジネスモデルは良い物語を語る
・成功したビジネスモデルは、当然のことながら、既存の他のものと比較して良いやり方だということ
・戦略の極意は何をしないかを選ぶことである マイケル・E・ポーター
・マネジメントとは他者を通じてパフォーマンスを行うということ
・他者が喜んで協力してくれないことには、マネジメントはほとんど何も達成することができない
・価値創造のもっとも強力な源泉は人間の頭と心に秘められている
・結局黄金律、自分がそうされたいように人にもしなければならない
・あなたが人に信頼してもらいたいように、他人を信用しなさい
 約束を守れ
・個人への敬意、組織の中で普遍的かつ公に賛美されている価値観
 効果的なマネジメントは個人への敬意を土台としている
・人はそれぞれに異なり違った適性があることを認めること
・適切な人間を最大のチャンスのあるところに置く
・優れたマネージャーは何が教えられ、何が教えられないかの違いを見分ける知恵を持っている
・優れたところをさらに伸ばす手助けはできるがその人自体を変えることはできないし
 またしてはならない
・マネージャーが学ぶべき最も重要な訓練:共感
・外側から内側をみる、他者の目を通して世界をみる
・他人とうまく協力して働くということは、自分の権限とものの見方の限界を受け入れること
・価値創造とは、顧客の目を通して世界をみること
・優れた戦略家は、ライバルの目を通して世界をみる
・優れたネゴシエーターは、相手方の目を通して世界を見る
・仕事での関係は上下も横の関係もますますネゴシエーションに近いものになっている
 耳を傾けるだけではたりない。想像力を駆使して、他者の世界に入っていこうとする姿勢でなければならない
 これは敬意をもって個人に接するために欠くことのできない側面
・人が自分自身を管理することができるように手助けする
・自己認識を促す
・マネジメントと人を操ることは紙一重
 どこが境界線かを示すのは難しいが、その一線を超えると人はそれを敏感に感じ取る
 心理学が自己認識のために適切に使われているときと、コントロールの道具として
 濫用されているときはちゃんと見分けられるもの
・マネジメントとは、共同での仕事の遂行を可能にする原則である
・価値創造がその使命であり、そこでの価値は外側から内側をみることで規定される
 一番大事なのは目的
・目的にあったデザイン:戦略 いかに組織が他と異なり、他者よりもより良くなるかを具体的に示すもの
・組織をデザインするということ:
 境界線と権威のラインを引いて、戦略を実行にうつす手段を作り出す
・実行すること:  約束した結果をだせているか
 ゴールを設定し、進歩の程度から目を離さず、今日の実績と明日の実績とのバランスをとるためのイノベーションを行い、優先順位を決める
 そこに資源を配分し、人に責任ある仕事を負わせ、説明責任を課し、共通の使命を追いかけるために、それぞれが自己管理できるように叱咤激励すること
・マネジメントはこうしたことすべてをうまくこなせなければ、成功はおぼつかない
・技術的知識と人間に関する洞察の両方が必要
・恐るべき複雑さや不確実性と変化に対処する大きな視野と気質も必要
・分析と共感、熱狂と好奇心、決断力と忍耐力も必要
・マネージャー達は、何もかもに疑いを持ち、何一つ当然と思わず、それでいて仕事を
 実行するために他人を信用しなければならない。
・本当の問題点は超えるべきハードルがあまりに高すぎて、これまで自力でそれを超えた
 人間がほとんどいないに等しいということなのではないだろうか
 あらゆる面で優れている人間はごく稀。
・チーム全員に必要なのは、誠実さと狭い利己主義を超えた共通の使命への献身
・マネジメントは、組織の目的に最も適した道を選ぶトレードオフの技術なのだ
・ 結果に対して、本当の説明責任を負えるような方法を発見することこそ努力の中心となる

読み進めるごとに、足りなかったピースがカチッとはまっていく感覚に感動すら覚えた。
マネジメントとはなにか、マネジメントの原則とはなにか。
この点を明確に定義したという点で、本作は名著中の名著だと思う。

ぐるっと世界が展開してめまいすら覚えた一文を最後に挙げたいと思う。

他者を通じて仕事をする必要があればあるほど、われわれは自分自身を理解しなければならない

複雑化、専門性が極限まで高まっている現代において、他者の助けを借りずには仕事はなしえない。
共同での仕事の遂行が必須であり、その手段がマネジメントなのである。

改めてマネジメントの原則の根幹をあげるとすれば、やはり黄金律だろう。
自分のしてほしいと思うことを人にもするためには、自分を外側から客観視して、相手の目からみて
どうしたら嬉しいかを考える必要があるのだ。
自分の尊敬する上長は、マネジメントのコツは常に斜め上から自分を見下ろす客観性だと語った。
そうなのだそういうことなのだ。

ルカ6章31節に書かれている黄金律は幼少のころから知っていた内容だ。
しかしこれがマネジメントの根幹であり、価値の創造でも、戦略をたてるときにも、交渉するときにもワークする、汎用性の持った時代に左右されない、根源的な原則であるという、その価値に理解が至っていなかったのだ。

本書が邦訳されたのは2003年、実に15年前だ。
あと10年この本を早く手にとっていればもう少しいろいろ変わっていたかもしれない。
いや、当時読んでもその価値は理解できていなかったかもしれない。
今年40歳になるこのタイミングで読めたことに、いまはただただ感謝する他ない。

欠けていたピースをつなぎ合わせ、価値創造→戦略策定→実行に移すための組織デザイン→計画進捗の管理→そして説明責任を果たしつつ結果をきちんと約束通り出す。
このすべてを泥臭く、着実に旋回させていくために、これから壁にぶち当たる度に、本書をもう一度紐解き、マネジメントの原則を噛み締め、そしてただ実行していくのみだ。

素晴らしい本に出会わせてくれた@Vengineerさん、本当にありがとうございました。

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2010.07.21

ストーリーとしての競争戦略

最近流し読みすることが多かった中で、ひさびさに「ストーリーとしての競争戦略 - 優れた戦略の条件 -(楠木健著)」は何度も読み返しながら読んだ。こんなにじっくり読んだのはクリステンセンのイノベーションのジレンマ、解以来かも。

まずAmazonの「なかみ検索」で読める前書きが非常に良い。ビジネスの成功で、理屈で説明がつくのは2割に過ぎない、でも8割が理屈じゃないからこそ理屈が大事であると楠木さんは言う。なぜなら「何が理屈でないか」を説明するには、まず「理屈を知る」必要があるからである。学者さんの立場から本の主な読者である実務家への、本書を読む動機づけとして真実味と説得力を持った、これまた「理屈」である。

そして戦略の本質とは「違いをつくって、つなげる」ことである、とシンプルに定義されている。他社と違いがなければ経済学でいう「完全競争」となり余剰利潤はゼロとなる。だから「違い」をつくらなければならない。
さらに、戦略とは、映画や小説のようにストーリーとしての優劣があると説く。「コスト削減のためだけにオフショアを使う」というような筋の悪い話は悪い戦略であり、文字通り「話にならない」。「違い」を生み出すさまざまな打ち手が相互作用して、顧客へのユニークな価値提供と、その結果として生まれる利益に向かって駆動していく論理に着目すべきであり、「違い」を「つなげる」ためにはストーリーが必要であるという。

ストーリーとはアクションリストでも、法則でも、テンプレートでも、ベストプラクティスでも、シミュレーションでも、ゲームでもない。何でないかを示す形で、従来の戦略論がなぜうまくワークしないか、丁寧に論理展開される。

ビジネスにおける勝ち負けの基準は、「長期にわたって持続可能な利益」が得られるかどうかであり、戦略によって達成される目標もそこになければならないと明言される。業界の競争構造(Where,When)、競争戦略としてStrategic Positioning = トレードオフを前提とした位置取り(What)、Organization Capability(How)、それらを論理をもってつなぐ戦略ストーリー(Why)が因果論理の束となったときに競争優位が生まれ、目的としてのコンセプトが達成される。

楠木さんがストーリーにこだわる理由として、以下の一節がある

まずは自分で心底面白いと思える。思わず周囲の人々に話したくなる。戦略とは本来そういうもの
であるべきです。自分で面白いとおもっていないのであれば、自分以外のさまざまな人々がかかわる
組織で実現できるわけがありません。ましてや会社の外にいる顧客が喜ぶわけがありません。

まさに膝を打つくだりだった。大量のパワポをつまらなそうにめくりながら、うまくいきそうな「静止画」的な要素が全部入りされた戦略より、いきいきと未来を切り開く意志をもって、ストーリーで語られる戦略のほうがきっと楽しいし、ワークする確率も高いだろう。

本書は、面白いストーリーを「持続可能な長期利益」につなげる「打ち手」でがっちり組み上げるために、理屈で説明のつく2割を徹底強化するための本と言える。読み終えた暁には、周りの事例が、なぜ悪い戦略なのか、なぜうまくいかないのか、逆にうまくいっているのはなぜか、の分析を行う際に、そこに「ストーリー」があるかどうか、「筋の良い話になっているかどうか」という新たな評価軸で判断できるようになっているだろう。


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