Blu-ray vs HD-DVD戦争の勃発からはや1年強、ついに戦争終結の時が来た。
株式市場が終わった週末のNHKへのリーク、そして東芝からの公式コメント発表の流れは、撤退の決断はすでなされたと捉えて良いだろう。本社と事業部の確執ってのはどこでもある話で、本田さんの本社サイドから事業部への戦略的誘導という分析は頷ける。
さて、今回のエントリの本題は、アルファブロガーな方々が、真の勝者はBDではなく、ネット配信+HDDだと口を揃えている点についてだ。
MacWorld Expo 2008の真打ちはApple TVだった
世間ではBlu-RayだのHD DVDだのが騒がれていますが、もはやコンテンツの配布手段としての物理メディアそのものが終焉を迎えつつあって、実はリビングルームでもネットとHDDが勝者になるんじゃないの?ということです。
Life is beautiful: Apple TV - take II
ちまたには、東芝がHD DVDから撤退という話が流れているが、そもそもDVD以降の物理媒体には手を出すつもりのない私には一切関係がない話。やっぱりこれからはネット経由でしょう、どう考えても。
BD vs HD-DVD、勝ったのはどっち?
少なくともコンテントを大量配布する手段としての物理メディアはもう終了しました、ていうことでOKでは。
(中略)
今やBD相当のマーケットニッチって、思いの外小さい。
BDは勝ったけど、勝利の大きさとしてはMD程度におさまっちゃうのでは。
正しい方向性の意見ではあるのだけれども、時間軸の観点でいうと、まだちょっと早すぎる考え方だと思う。ネット配信がメインストリームに到達するまでには、2~3年のオーダーじゃなくて少なくとも5年以上かかる、そういう過程を経てDiscはゆっくり消滅していくと思う。
理由はいくつかある。
一つ目は、ビットあたりの転送コストだ。
Life is beautiful: Apple TV - take II
米国のブロードバンド事情(1MbpsのADSLが月30〜50ドル、光ファイバーの普及率は極端に低い)を考えれば仕方がないところ。
Life is beautiful: Apple TV - take II
Disc大国、北米におけるネット環境は実に貧弱だ。仮にITunesStoreのHD映画コンテンツ1本(4.5GB)を1Mbpsの回線でダウンロードすれば、実に10時間もかかる。もうちょっと速い8Mbps回線でも1時間15分だ。DLしながら視聴するというプログレッシブダウンロードによって、多少待ち時間は改善できるかもしれないが、いつコマ落ちするかわからない状況下で、ドキドキしながら映画を見たいひとは少ないだろう。世の中便利なもので、ネットでDiscをワンクリックで買うと翌日に届く時代だし、郵送Discレンタルサービスは急成長を続けている。現状と同等の月額料金で1Gbpsサービスが気軽に使える時代が来るまでは、ネット+郵送+Discの組み合わせが最良のソリューションだろう。では、ブロードバンド先進国日本なら状況は異なるのだろうか?否、今度は配信側のデータ転送コストが割りに合わない。つまりサーバーから配信を続けている限り、ビジネスとして成立しない。だから1Gbpsくらい普通に皆が使えて、P2Pで超高速共有される時代がこないとネット配信はメインになることは難しいだろう。(プロバイダの帯域制限という壁もまた別途ある)
二つ目は、コンテンツのクオリティだ。
帯域の制約、Discコンテンツとの差別化のために、どうしてもネット配信コンテンツはクオリティを下げざるをえない。ちなみにAppleTVで扱っているHDコンテンツというのは720p解像度コンテンツのことだ。しかも採用しているAVCエンコードのプロファイルはかなりお粗末だ。CABACが使われないAVCとは、紅しょうがの載っていない牛丼に等しい。(紅しょうが嫌いっていう人もいるだろうが...)。iTunesのMP3エンコードのデフォルトビットレート設定を160kbpsにして、なおかつ推奨はAAC、という音質への素晴らしいこだわりが感じられたAppleの真摯な姿勢が、こと映像になると途端に失われてしまっている。AVCとMP4の盟主と呼んでも良いポジションのはずのAppleが、なぜAppleTVをあれほど中途半端な仕様にしてしまったのか、理解に苦しむ。
つまり、HDTVですがハイデフなソースはほとんどありません。42インチぐらいならSD画質でも全然困らないですね。
MacWorld Expo 2008の真打ちはApple TVだった
これは、本当の1080pHDコンテンツを見ていない間だけ言えることだと思う。一度体験したら、どんなに優れたアップコンが施されても、
もう元には戻れないだろう。きわめて忙しい生活を送る中で、1~2時間ものまとまった時間を使って、ひとつのコンテンツに対してアテンションを消費し続けるというのは、なかなか気合のいる所作だ。同じ時間を消費するのであれば、より高いクオリティで楽しみたいと考えるのは自然な欲求だろう。
ただし、クオリティは向上の一途をたどるだろうし、イノベーションはいつでも低いクオリティを利便性で補いながら成長するので、これも時間が解決する問題だ。
最後の三つ目は、「いつでも見れる」は「いつまでも見ない」と等価であるということだ。
「そうか、ネットの向こう側に、HDDを購入する何%かの値段でいつでも欲しいときに引き出せるライブラリがあると思えばいいのか」
MacWorld Expo 2008の真打ちはApple TVだった
この考え方をした途端、週末に"その"コンテンツを見る必要性がなくなる。もっと別の差し迫った何かに時間を割きたいと考えるだろう。だっていつでも引き出せるのだから、今週末に見る必要性がそもそもない。映画の公開期間が決まっているから、Discを借りて返す期限がきまっているから、録画しておかないと見れないから.....つまり、見れる期間に制約があるからこそ、人はコンテンツを見る。もっと根源的な言い方をすると、そもそも見たいコンテンツというものは存在しない。CMや予告トレーラーや広告を見るからこそ、見たくなるのだ。したがって、ネット配信がこれから乗り越えなければいけない壁は、新しいコンテンツをどう訴求して、どうすればコンテンツを"今"見なければと思わせるか、という問題だ。映画館やTVCM、店頭でのパッケージ陳列に打ち勝つコンテンツの提示方法を、これからネット配信サービス事業者は模索していかなければならない。残念ながら、まだAppleTVのUIと機能ではこの問題は解決できていないと思う。
...なんてことを書きながらも、奇跡的なパラダイムシフトを何度も行ってきたApple、勝つまで辞めないMS、勢いのあるGoogleあたりのどこかが、この壁をあっさり超えてしまうかもしれない、と一抹の希望と不安の入り混じった感情を抱いてしまうのは、家電業界という斜陽産業に身を置いているからかもしれない。