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2004.04.29

オブジェクト指向の次に来るもの

Psychs氏のソフトウェアの抽象性と具体性に対するトラックバック
SI業界の業務アプリケーション開発には、オブジェクト指向の唱える抽象化はあまり役にたたないという話。

オブジェクト指向のみでソフトウェア開発が幸せになれるわけではないことは、MSもちゃんとわかっている事だと思う。.NETの仕様に、構造化手法やデータ指向の要素も取り入れられている事から、「オブジェクト指向"も"使うと良いね」という設計思想が読み取れるからだ。オブジェクト指向以外は認めない、というJavaとは対照的なアプローチと言える。

やはり、ソフトウェア開発に「銀の弾」が存在しない以上、何かしら一つのアプローチだけで生産性、再利用性、品質の向上を実現することは、今後も考えにくいだろう。従って、複数のアプローチを状況に合わせて組み合わせる、というやり方で凌いでいくしかない。

例えば、部品としての再利用を本気で考えるのであれば、アスペクト指向がいいかもしれないし、適度な抽象度を保ったライブラリが欲しいのであれば、Genericsが良いかもしれない。サービス指向は、汎用性が保てる臨界値レベルの再利用ができる・・・かもしれない。要はオブジェクト指向と直交する概念で、従来の手法の補完が図れるような「次」のパラダイムを見据えて行くしかない気がする。

今のソフトウェア産業は、家内制手工業時代の綿紡織業と同レベルの、労働集約型産業であり、従来の経験則と、そこから導出された数少ない方法論の中から、「手探り」で有効と思われるアプローチを選んでいくしかない状態ですから。

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2004.04.15

Googleに見るインターネットのあちら側の結末

Googleの独自技術はどこまで汎用的で競争力があるのかに対するトラックバック。

Googleが持つ競争力について鋭くまとめておられる。いつもながら梅田さんのBlogの記事は考えさせられることが多い。ただ、最近の「Googleが次世代のコンピューターメーカーの姿」という流れについては、あまり同意できない点が多々ある。今日はそのことについてまとめてみる。

まず、梅田さんのBlogでGoogleの競争力として挙げられていた点について引用する。

(1) 10万台のコンピュータを並べて出来上がったGooOSで動くスーパーコンピュータと、 (2) それを作り上げたPh.D連中の才能と、 (3) そのコンピュータの中にどんどん溜まっていくデータ、の3つだと規定している。
上記の3点について、それぞれ意見を述べていこうと思う。

まず(1)だが、GFSや独自の高速検索技術などを搭載して、クラスタリング用途にカスタマイズされたLinuxベースのGoogleOSに注目されているようだ。高度なサービスの裏で動作する、このブラックボックス化された独自技術が競争力の源泉だ、という論理はうなずける部分もある。しかし、検索エンジンとしての機能に限定して考えるならば、他社でも同様のサービスは比較的容易に提供できると思う。YahooがGoogle検索エンジンを使わなくなったことは記憶に新しいが、これは代替技術をすぐに入手できることの裏返しだ。理由は明白で、差異化がソフトウェアレイヤーのみに留まっており、ハードウェアは汎用PCを使っているに過ぎないということに尽きるだろう。使える素材が同じPCとLinuxで、勝負のポイントはカスタマイズOS+ミドルウェアだけ、というのでは他社でもすぐに追いつけることは容易に想像できる。RAIDを使わない独自のファイルシステムやユニークな検索技術などに対して、純粋な技術的興味は湧くものの、残念ながらそれだけでは圧倒的な競争力を持つには至らない、というのが私の見解だ。

実際のところ、検索技術に特化したベンチャーはたくさん台頭してきており、これからもその傾向は続くだろう。(『Google』はもう古い? 技術革新にしのぎを削る検索各社) (Amazon、検索サービス提供で「技術サービス企業」目指す

特にGmailサービスについては、個人的にはGoogle没落の兆しなのではないかと見ている。1GBというメール容量がサービスのアピールポイントになってしまっており、どちらかというとメールの中身を検索して広告をだされてしまうというネガティブな要素に人々の関心が移ってしまっている。概して、容量など数値で勝負しようとすると、サービス競争は泥沼に陥る。早速、類似サービスも始まっているようだ。「こっちは広告がでない。」なんてことがセールストークに含まれる始末である。

Gmailサービスの成功の可否について本質的な話をすると、インターネットの"あちら側"にメールデータをもっていかなくても、ユーザーはWindowsClientとメーラー(Outlookは嫌ですが^^;)で十分満足している、という現状にまず注目したい。GoogleがWindowsを競争相手に見立てて、今までインタネットの"こちら側"にあったデータを"あちら側"に持っていこうとする戦略自体は理解できる方向性だ。しかし、プライベートな内容を沢山含んだデータを"あちら側"に預ける事に伴うリスクまで考えれば、現状で十分満足できていると思われるメール管理分野に提供されるGmailサービスは、持続イノベーションにすら該当しないのではないだろうか。さすがにプライバシーの侵害とみなして、過剰反応を示す動きには閉口させられるが、Gmailサービスがこの先難しい舵取りを迫られることだけは確かなようだ。

さて、(2)の優秀なPh.Dについてだが、大手ベンダーにはもっとたくさんの優秀な博士が腐るほどいるはずである。スタッフの優秀さのみで勝負がきまるのであれば大手が必ず勝つはずだ。国内を例にとっても、確か日立が一番博士を多く擁しているが、必ずしも家電メーカの中でトップにはなっていない。勝敗を決するのは「イノベーションの解」であった通り、これまでに無かった市場で「人々の済ますべき仕事」に、いかに効率良く応えるかで決まるはずだ。Googleは、検索サイトという新しい市場において、膨大な情報から欲しいデータを取得する優れた手段を人々に提供した。だから現在の地位があるのだと思う。勿論スタッフが優秀であるに越したことはないが。

次に、(3)のGoogleが保持するデータ(大量のWebキャッシュや整理されたMAP)だが、これもWeb全体からみれば、まだまだ十分な量とは言うことはできないようだ。さきほどの『Google』はもう古い? 技術革新にしのぎを削る検索各社から引用すると、

Googleがすべてを網羅していると考えるのは間違いだと、専門家たちは言う。今日の検索エンジンは、ウェブ全体のわずか1%ほどしかカバーしていないおそれがあり、その大きな原因は、オンラインリソースを見つけ出し検索結果に反映させる方法が不十分なことにあるというのだ。  「非常に物足りない」とヘザリントンさんは言う。「図書館へ行って、棚から本を1冊しか取らないようなものだ」

という指摘もある。検索分野の競争はこれからが本番だといえるだろう。しかし、Googleが先行して、今有利な立場にあることは事実だ。では、インターネットはこれからも"あちら側"での勝負が焦点になるのであろうか。私はそうは思わない。理由は以前の投稿「これから10年間のソフトウェア産業の行方」「MicrosoftはIOS(InternetOperatingSystem)も支配する」からどうぞ。

Google批判だけで話が終わっても建設的ではないので、これからの展望も書いておく。インターネットの"あちら側"において、Googleの一点集中型の情報発電的なアプローチに一定の成果があったことは評価できる。しかし、やはり本命はP2Pによる分散アーキテクチャだと個人的には考えている。PCの誕生以来、抽象化の道を突き進み、何層もレイヤーを積み上げてきた結果、勝者はIntelとMicrosoftに決まった。これより上のレイヤーでは、もう寡占的な勝者は現れないだろう。一時的に優位な立場になっても、Microsoftの統合対象になるだけである。

上層レイヤーで幾ら頑張っても勝機がない以上、Wintel支配体制をひっくり返すには、より下層のレイヤーつまりハードウェア層からの再構築が必要である。それを今やろうとしているのが、YUBLOGさんが(GoogleとSCEI)の中で言われているとおり、Sony,IBM,Toshiba連合により取り組まれているCellProjectだ。また、カスタムLSIを従来の1/10の期間で生産するという半導体製造分野の破壊的イノベーションも着々と準備が進んでいるようだ。このプロジェクトを率いておられる東北大の大見教授の講演は、ぜひ一度見ておくことをお勧めしたい。(2003年度「POFコンソーシアム公開講演会」

製品やサービスにおける競争の勝負の分かれ目が、ブラックボックス化された特定の要素にあることは間違いない。ただし、これからの数年間は、ソフトウェアよりはハードウェア分野で革新がたくさん起こり、それに伴ってハードウェアにおいていかに差異化を図るかで勝敗が決まるようになるだろう。

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2004.04.01

これから10年間のソフトウェア産業の行方

「10年後、ハードはタダ同然になる」とビル・ゲイツ氏
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0403/30/news067.html

確かに、これからのPC単体のスペックは大幅な発展が見込めないことから、タダ同然に近づいていくかもしれません。この点を考察するにあたって、今日の梅田さんのBlogは大変示唆に富んでいました。

連載1周年:日本にとって米国のIT産業は絶対ではなくなった?
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001111.html

この記事で注目したいのは、インターネットの"あちら側(巨大情報発電所)"と"こちら側(デジタル家電)"で日米の関心がずれているという指摘です。個人的にはPC上のソフトは、PCのハードと同じようにタダ同然になると考えています。よってインターネットの"あちら側"にはもう利益を生むものはないというのが専らの私の考えです。なぜなら、コンシューマがソフトに直接お金を払う機会がどんどん減っているからです。支払われるとすれば、究極のところはサービスを維持するための純粋な人件費(=メンテ代)だけに近づいていくでしょう。その原因がオープンソースであることは言うまでもないでしょう。同じ理由でSNN(Orkut、Greeなど)は、ユーザーから直接お金を取ることはできないことが容易に予想されます。利益になるとすれば、ユーザーの詳細なプロフィールによって可能となる、ピンポイント広告配信システムに支払われる広告主からの収入だけです。

ただし、SNNがそのような形でしか儲からないからと言って、ネット専業型企業のビジネスモデルを否定するわけではありません。Yahooやebay、国内では楽天といった一部の勝ち組企業はこれからも成長いくでしょう。しかしそれはソフトによるのではなく、また提供するサービスによってユーザーから直接収入を得るケースもまれだと思います。なぜなら、広告やECサイトの運営元などを間に挟んだ形態で利益を生んでいるからです。ネットオークション型の、言わば橋に交通量を課すビジネスモデルで成功できるのは今の勝ち組企業の中でも、さらにごく少数になるはずです。

従って、これからの10年でコンシューマーから直接の収入を得るためには、ハードで差異化を行う必要があります。それに伴い、ソフトはハードの付加価値の位置にまで転落する、と私は考えています。コンシューマーの"必要な用事を片付けること"に特化した多種多様なハードに"組み込まれたソフト"によって儲けるしかないからです。ソフト単体で莫大な利益が得られた一つの時代(era)はもう終わりに近づいているのです。

その兆候の一つとしてCPUアーキテクチャの大転換点が迫っていることが挙げられます。

CELLもそうですが、Intelも同様にマルチコア、マルチスレッドに舵をとっています。その流れの先には、シリコンフォトニクスの実用化をきっかけとする、並列(並行ではありません)&分散型プログラミングへの大きなパラダイムシフトが待ち受けているのです。

8bit/16bitCPU時代にアセンブラ職人がいたように、ネット上の複数のCPUの同期をとるような非常にプリミティブなコーディングが"しばらく"重宝されるようになるでしょう。並列&分散型パラダイムに対応したOSの実装には多大な時間が要されるので、PCのように約20年をかけて、ゆっくりと製品の競争力の観点でのソフトの比重が高まっていくことなるのです。

ここでインターネットの"あちら側"には、グリッドコンピューティングがあるではないかというご指摘が予想されます。しかし、並行&分散型プログラミングの最大の焦点はリアルタイム性だと思います。1ms単位未満のタイマ割り込みを保証できないPCアーキテクチャで分散処理を行っても先が見えています。スタンドアロンを前提としたアーキテクチャであるPCを繋いでも、科学技術計算や金融商品のシュミレーションのような大量のバッチ形式で処理される、ごく限られた用途にしか使えないと私は考えています。さらに、光ネットワークによってCPUが直結されるアーキテクチャが実用化された折には、最大のボトルネックがハードウェアになることは間違いありません。その時、IBM/ATを起源とする古いアーキテクチャは足枷に他なりません。以上の理由から、大量に繋がれたPCによって提供されるサービスがコンシューマーに対して直接価値を提供するかのように謳われる、グリッドコンピューティングには私は非常に懐疑的です。

さて、PC上のソフトがタダ同然になる以上、MS以外のPCソフトベンダーにはこれから地獄のような苦しみが待っています。ただし、大手SIerはアウトソージングによるホスティングのメンテで食えるので、すぐには、死活問題にならないと思います。SEの数が今ほどいらなくなるのは確かですが。そして、中堅以下のSIerや中小ソフトハウスはこれから非常に厳しいです。成熟したプラットホームにおいては、ごく少数の勝者しか生き残れないからです。例えてみれば、インターネットの"あちら側"には枯れつつある泉しかなく、年々量の減る湧き水ですらも、MSや一部の勝ち組みネット企業によって大半が飲み干されてしまうのです。ゆっくりと枯れてゆくPCという泉の中で、M$はしばらく過去最高売上&利益を更新しつづけることでしょう。

以上の理由から、これから10年間のソフトウェア産業の未来は、インターネットの"こちら側"、つまり光ネットワークで直結されて協調動作する、多種多様なハード上に組み込まれるソフトにあると思えてならないです。

#"わかった気になっている"だけの妄言かもしれません。その時は、4/1だったということで :)


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